コラム

心の健康に関するテーマの中でも、特に複雑で理解しにくいとされる「境界性パーソナリティ障害」。
その多くは思春期から青年期・成人早期に起こると考えられています。
子どもの発達に関わる中で、成長してもこのような問題に直面することがあり、早期の理解と対応が大切なため、今回のコラムでご紹介します。

【境界性パーソナリティー障害とは】

境界性パーソナリティ障害は、自己イメージの混乱、見捨てられ不安、感情コントロールの難しさの3つの主症状からくる不安と恐怖がもととなり、自分のアイデンティティや他者との関係性が不安定となる心の障害です。
英語では「Borderline Personality Disorder（ボーダーライン パーソナリティ ディスオーダー）」と言い、「BPD」または「ボーダーライン」と略されることもあります。
日常的に感情の波が激しく、人間関係の構築や維持が難しいと感じることが特徴的です。

｢境界性｣という名前は、｢神経症｣と｢統合失調症｣という2つの心の病気の境界にある症状を示すことに由来します。
例えば、｢強いイライラ感｣は神経症的な症状で、｢現実が冷静に認識できない｣という症状は統合失調症的な症状です。

【よく見られる症状】

境界性パーソナリティ障害は人口の約2%に見られ、特に若い女性に多いと言われています。
よく見られる症状として、主に以下のようなことが挙げられます。

①感情の不安定さ
何気ない出来事に過度に反応することがあり、怒りや悲しみが激しいものであることが多い。
気分や感情がめまぐるしく変わり、周囲の人々がついてこられない。
感情のブレーキが効かない。

②対人関係の不安定さ
人との関係性が急激に変わることが多く、コミュニケーションが安定しない。
理想化したり、突然その人を拒絶したりすることがある。

③自己イメージの不安定さ
自分自身についての見方や感じ方が頻繁に変わる。
生きることに対して辛さや違和感を持ち、自分が何者であるかわからない感覚を抱いている。

④衝動性
考える前に動く傾向がある。
自己を損なう行為(薬物、過食、突発的な支出、リスクのある行動など)に依存しやすくなる。

⑤自傷行為
自分自身を傷つける行為や自死念慮が現れることがある。

【原因】

境界性パーソナリティ障害の原因は完全には解明されていませんが、遺伝的要因、環境的要因、幼少期のトラウマ、脳の生物学的変化などが関与するとされています。
遺伝的な要因を持った人が、育った環境によって引き起こされることが多いようです。

【治療法】

時間はかかりますが、適切な治療を受けることで症状は改善します。
主な治療法は、薬を用いた治療と精神科医や臨床心理士によるカウンセリングや行動療法です。

〈薬物療法〉
｢気分の落ち込み･強い不安感･怒りの感情･冷静でいられない｣などの症状に対しては、抗うつ剤や抗不安薬などの薬を用いて治療します。

〈カウンセリングや行動療法〉
・直接対人治療 (DPT): 対人関係の困難に特化した治療法
・認知行動療法 (CBT): 感じや考え方を変えるための治療法
対人関係の不安定さは医師や心理士との間にも起こると考えられますが、医師や心理士を信頼し、｢治りたい･治したい｣気持ちを忘れずに長い目で治療に取り組むことで改善していきます。

【接し方】

もし子どもや身近な人が境界性パーソナリティ障害を持つことがわかったら、どのように接したらいいのでしょうか？
境界性パーソナリティ障害を持つ人は常に不安や恐怖を抱えています。
周囲の人々を振り回し、疲れさせ、関わりを遠ざけてしまうようなことを繰り返すのも、自己表現のひとつであり周囲の人々に対する｢試し｣であることがほとんどです。
その子がなぜそのような言動を起こすのか、冷静に見つめる必要があります。
無理に変えようとするのではなく、まずは受け入れ、理解し、感情的に否定せず、冷静に対処していくうちに解決の糸口が見つかる可能性があります。

受け入れようとするあまり、振り回されて疲れ切ってしまわないよう、必要以上に要望に応え過ぎず、自分に無理のない範囲にとどめておくこともポイントです。
家族で抱えこまず専門家に相談し、支援を受けたり、定期的に助言をもらうようにしましょう。

境界性パーソナリティ障害は、感情や対人関係の深刻な不安定さを伴う複雑な疾患ですが、適切な治療を受けることによって、少しずつ変えていくことができます。
本人だけでなく、家族や友人も適切な情報と理解を持つことが、サポートの第一歩となります。

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監修：
発達支援スクール コペルプラス
代表講師　有元真紀

幼児教室コペルの講師時代から、のべ1万人以上の子どもたちの指導に携わる。
また近年は指導員の育成にも力を入れている。