コペル感動ストーリー
私がコペルに入社したのは昨年の3月です。数年前に保育士の資格は取得したものの実際に保育園に勤務したことはなく、まして福祉の世界で働くのも初めてでした。
そんな私が配属されたのは開校して数か月のコペルプラス湘南台教室。既に数人の児童が楽しそうに通い、明るい雰囲気が漂っていました。
そこで出会ったのが5歳のAくんです。お話がとても上手で、新しい指導員である私にも興味を示してくれました。
認定試験に合格後初めて担当した時のAくんは少し緊張しつつも、新しい先生には自分が教えてあげなくてはという気持ちがあったのか、いろいろなことをお話してくれました。
「先生次はこれだよ」
「鉛筆じゃなくてペンで書くんだよ」
など、初回はまるでAくんが先生のようでした。
指導員としてまだまだ駆け出しの私には毎日が驚きと発見の連続で、プログラムを最後まで終えることや、子供たちに集中して取り組んでもらうことで精いっぱいでした。これが終わったら次は…、時間配分はこれでいいのだろうか、と顔は笑っていても心の中は不安だらけです。
ある日、Aくんの数回目のレッスンでのこと。フラッシュカードを見ながらAくんがイライラしている様子が伝わってきました。着席はしているものの机に顔を伏せたり全体的に体がぐにゃぐにゃして表情もありません。
「まだ終わらないの」
「早くおもちゃ出してよ」
と、とても強い口調で話しています。何とかなだめすかしてシール貼りに取り組みました。数字の書かれたシールをカレンダーに貼っていきます。1、2…と順番通りに貼るでもなく全てを適当な場所に貼るAくんに私は
「同じ数字のところに貼ろう」
と言いながらシールの台紙を何気なく捨てました。するとAくんは突然机を叩いて立ち上がり、烈火のごとく怒りだしたのです。目には涙がたまっています。
大声を上げ怒りを表現するAくん。これではいけないと
「Aくん、座ります。大きな声は出さないで。どうしたの?」
と尋ねました。しかしAくんの怒りは一向に収まりません。だんだん声も大きくなりました。
「先生が嫌なことした!謝ってよ!」
と泣きながら訴えます。
「何が嫌だったの?先生にお話してくれる?」
と訊いても
「謝ってよ!」
の一点張りです。時間がどんどん過ぎていきます。焦った私は
「ごめんねAくん。先生が嫌なことしたんだね。ごめんなさい」
と謝りました。理由は全くわかりません。ただその場しのぎの謝罪です。
その後少し落ち着きいくつかの課題に取り組むことができました。そしてしばらく経ってからもう一度理由を尋ねてみると
「シールの紙を勝手に捨てたから」
とやっと教えてくれました。たったそれだけのことで?と当時の私にはその理由に納得がいかないままその日を終えました。
それからしばらくAくんの心の不安定さは続きます。ひらがなを書くのにも、少しはみ出た、線が曲がったといったことで突然大泣きしたり、こちらがレッスンを進められないほどにおしゃべりをしたりが止まりません。プログラム通りに進まない歯がゆさからこちらも焦り、無理やり進めようとして機嫌を損ねることが何度もありました。
ある日いつもお母さんと通っていたAくんが珍しくお父さんと来室しました。
「お母さんがね、入院したの。あと15回寝たら帰ってくるんだって」
とお話してくれるAくんは明らかに心配と不安で押しつぶされそうになっていました。
お母さんが家にいないという非常事態でもしっかりがんばらないといけないと思っている様子が伝わってきます。いつもよりずっとおとなしいAくん。一生懸命課題に取り組みますが、事あるごとに涙が出てきます。前回までとは違う涙に私はハッとさせられました。ひょっとしたら最近お母さんの体調が悪いことをAくんは分かっていて、その不安からイライラしていたのかもしれない。お母さん思いのAくんのことだから、きっとお家ではお母さんに負担にならないようにがんばっているのだろう…そう思うと胸が締め付けられそうでした。
コペルの理念の一つに〈あるがままの姿を認めて比較をしない〉というものがあります。言葉の意味は分かっていたつもりでしたが、実際の自分はどうだっただろう。今のAくんが見えていただろうか。なぜAくんが些細なことで怒鳴ったり泣いたりしたのか本当の理由に気付けていただろうか。些細なことだと思っていたのは私だけで、Aくんにとっては重大なことだったのかもしれない。Aくんとのやり取りで、この理念の真の意味に気が付いた気がしました。プログラムを進めることや、着席して取り組むなどの理想ばかりを押し付けず、Aくんが今できることに目を向け、不安を取り除いてあげて、できたという喜びを感じられるように支援しよう。そう思えたのです。
それからはAくんのお話を聞く時間も作りながら、得意なことに時間を割き、難しいことでも少しチャレンジできただけで大いに褒めることを意識しました。
「間違えてもいいんだよ」
「チャレンジしたことがすごい」
と声掛けを変え、自分にはできることがこんなにたくさんあると気が付いてもらえるように意識をしました。次第にAくんに笑顔が戻り、得意な図形や計算の問題もどんどんできるようになりました。それと同時にお母さんの体調も戻り、そこからのAくんの伸び方には目を見張るものがありました。
もうすぐ一年生になるAくんの最後のレッスンの後、サプライズプレゼントとして湘南台教室のそれぞれの先生宛にお手紙を書いてきてくれました。文字を読むのも書くのも苦手がったAくん。そこには元気で立派な字でこう記されていました。
『あさこせんせい いままでありがとう。がんばるよ』
